シンメトリーでなければならない二人




首を傾げて下からじっと兄の顔を見詰める。少しだけ困ったように眉を落とした兄は、口元に僅かばかり笑みを乗せて其の侭でいた。

「おにーちゃん」
「粧裕、どうかしたの?」
「ちょっと傷心なの」

わざとらしく溜息をつけば、兄は益々困ったように眉を顰めた。

「大学で何かあった?」
「うーん…そういうことになるのかなあ。あのね私、失恋しちゃったのよ」

強張った空気がして、刹那口の端が引き攣る。見上げるように覗き込むのをやめて、薄く美しい肩に凭れかかった。

「お兄ちゃん」
「……ん?」

何気なくソファの上に投げ出されていた長い指の上に、そっと手を置く。擽る様にじゃれつけば、半端な形で絡み合った指は其の侭許容された。 綺麗な指だなあ、と考えてそれでも自分の手より確実に一回り以上大きい其れをそっと撫でるように包む。緩やかに握り返されたのを感じて小さく微笑む。首を傾けて流れた黒髪が、兄のシャツの上をさらさらと滑っていくのが、なんだか酷く楽しかった。

自分の髪の色を疎ましく思ったことは一度もない。それどころか兄が何時も綺麗だと褒める黒髪は私の自慢だった。確かに兄の淡い其れとは大分色味が違ったけれど、ただ目の前にある輝く宝石が美しいように、日の光に照らされた雫が美しいように。違うからと言って嘆く理由は何一つない。

似てないといわれたことは何度かあるが、実はそんなに多くない。最近では特にそんなことは言われなくなった。似てきた、というわけではないと思う。

似ていなくても、通うものがあるのだ、私達は。

「わたし、可愛い?」
「うん可愛いよ」
「でも失恋しちゃったの」
「粧裕…」

ちょっと口を尖らせて見たが、ぽんぽんと頭を叩く手が優しくて子供っぽくて、つい笑う。なあにそれ、と握った方の手に力を籠めれば兄は可哀相にね、と静かに笑った。

「かわいそうに、粧裕」
「そうでしょ?」

失恋、というか。少しだけいいな、と思っていた人に彼女が出来たことを知ったのは先週のことだ。自然に二人並んで歩く姿に、明らかに私は落胆した。

「わたし、可哀相なの」

絡ませた指先から、兄の手首の裏を伝う音が聞こえる。とくとくと脈打つ熱に、どうしようもなく体の奥が灼けた。

私達には通うものがある。

それはこの体に流れるそれだけではなくて、目線を向けた先だとか、握られた整った指先だとかに共にもつもの。

「失恋しちゃったから」

先週までどんな人を好きだったのか、私はもう忘れてしまったのだけれども。

覗き込んだ瞳の色が酷く穏やかだったので、私は甚く満足する。伝わってくる鼓動の音に乱れひとつないことに、心の底から笑みが零れる。



私達は似通っている。

かわいそうな兄は、もう人に何かを求めて哀しむことを忘れてしまった。
だから私はこうやって指を絡め美しい色合いの髪を愛でながら、なんて可哀相に、とその澄んだ瞳に囁き続ける。









シスコンとブラコン加速する。
粧裕たん誕生日おめでとう!