真っ直ぐ目を見て嘘を吐け




「お前って何でピンでインタビュー受けたときだけ俺のこと誉めるの」

竜也はふとケンイチに問い掛けた。前後編という公開方式で話題になった映画の関係で、主役を演じる二人でインタビューを受ける機会がここの所多い。また場合場合でお互いのみの事も珍しくはなかった。 丁度撮影の合間手慰みに捲った雑誌には、ケンイチへのインタビューが結構大きく取り上げてあった。今一役者一筋というか、喋りを得手としないケンイチは竜也と二人でインタビューを受ける時あまり自分から話題を振らないから、こうしてケンイチの纏まった意見を見るにはいい機会だ。


「絶賛、だって。何コレ」

喉奥で笑いながら、竜也は先程から黙りこくっているケンイチの肩をつつく。決まりの悪げな後輩の姿に、何となく意地悪な気分になってもいた。

「俺の事尊敬してくれてるんだ?」
「…まぁ」
「ふーん、てそういうのは二人でインタビュー受けた時も言ってよ」

言いつつも竜也自身は共演者について、という質問はいつも面白い人だとかそんな回答で済ませている。それに付け加える様にケンイチが竜也さんも面白い人だとか言ってそれで大体終わっていた。



「それか直接言うとかさ」

含み笑いで流し見れば、ケンイチは案の定決まりの悪そうな顔で見返した。竜也はねえ、と足を組み替えて促してみる。少し堅いところのある彼を揶揄かうのは無条件に愉しい。

「俺、は」
「ん」

切り出したケンイチに竜也は少しばかり意外そうな面持ちで相槌を打つ。恥ずかしがって流されるのが関の山だと思っていた。


「貴方を尊敬してます。はやく追いつきたい、と思う。でも全然追いつけない……追いつけないと、思わせるんだ。…でも、だから寧ろ其処を尊敬してるのかも。」


思わず口の端がひきつって竜也は慌てた。恥ずかし気もなくこの、と誤魔化すように小突いてから何となくもう一度問った。俺のことどう思うの。するとケンイチはふと酷くシニカルな笑みを閃かせて囁いた。

「言って欲しいですか」

にやにやと嬉しそうに相好を崩すので、竜也はもう一度強めにケンイチの肩を叩いた。

「痛いですよ」
「俺で遊ぼうなんて十年早い」
「…」
「お前こそ言って欲しいんじゃないか」
「……まぁ」

不満気にしかめられた顔に、竜也はふふと笑う。



見栄を張って吐いた嘘を見破れない後輩に、やっぱ十年早いかと竜也はひとりごちた。

(そう、きっとそうやって自分に言い聞かせたのだった。)