喧伝されし




「お兄ちゃん」

雨の中立ち尽くしたバス停は、時間帯のせいか酷く閑散としている。 掛けられた声は歪みを知る前の真摯さをもって、凛と響いた

「……、」

振り返って見下ろせば、其処にたっていたのは年端も行かぬ一人の少女

「お兄ちゃんバスに乗るの?」
「…そうだよ?」

成る丈優しく返してやれば、何が可笑しいのかけらけらと少女は笑った

「乗り切れないでしょう?」
「…?」

「その人も一緒に乗るんでしょう?」

何もいない空間に向かって囁く少女
死神が笑む空間に向かって丁寧な礼

「……、」

雨の音が、息を呑む音を掻き消した

「…きみ」
「なあに?」

何で、と言おうとして凍りつく。
爛々と輝く瞳が常人には無いその光を

「お兄ちゃんは変わったお名前をしてるのね」

にっこりと笑った少女は花の様
歪みを知る前の真摯さをもって紡がれた声は何処か中性的

「……!」
「バスに乗れないのだから歩けばいいのよ」

わかりきったこと、
わからないの?

「歩けないのならそのまま其処にいればいい」

わかりたくないの?
それなら

「ねえお兄ちゃん」

花のように笑む少女の名を知る
問いかける声は止まずに


どこへいくの


「キラ」









「夜神くん?…珍しいですね」
「…竜崎」

ああこんなことだろうと思った
原因はすぐに思い当たる、そして目の前に広がる色の洪水

「お疲れですか?何なら隣の仮眠室を使いますか」
「いい、…じゃなくて竜崎。それもう早く処分しろよ」

古びた写真の数々、アルバムに閉じられた過去の自分

「どうせ捨ててしまうのだからもう少し見てたいんです」 「捨てろといったのはお前なのに」

耳鳴りがする。見たくも無い。



「夜神くんは昔は可愛らしかったんですねえ」



「…」


巫戯気るな、と言ってやりたかったのに
其処に向き直ったらまたも名前を呼ばれそうで

だから僕は



「見栄えがしたほうがいいだろう?」

掲げ上げるその頂に据えるならば



態と男に弱音を吐いた。






自省というより苛立ってるんだろう…
目指す姿と世間の評判は同じようで違うものです
ファイト神