蓋然性、手抜き、籤を引く程度の情熱で



「…」
「珍しいですね、推理小説ですか」
「なかなか面白かったよ。物語の起伏には欠けるから推理小説とカテゴライズするにはちょっと異質だけど、其の分心象描写が面白かった」
「…月くんの意外に古式そうな推理小説観についてはまたお伺いしたいですが…でどんな話だったんです」
「……まあいいけど。でもトリック言っちゃうのは趣味じゃないんだ。うーん致死足り得る状況作り、というか」
「ああ所謂プロバビリティーの犯罪というやつですね」
「ああ、其れだ。ちょっと失念してた」
「面白いですよね、死んでもいい、っていう曖昧な殺人ですからね」
「……ふふ、うん。面白い、よね」



月はにっこりと笑う。手元のシュガーポットを何気なくあけて、竜崎のカップに投げ入れた。 砂糖のLD50は大匙三杯。プロバビリティー犯罪のコツは勿論、根気強い殺意と笑顔。


「……もう一杯飲む?」
「月くんが淹れて下さるなら」


竜崎は月のあからさまな気まぐれに甘えて、一つ笑う。月が砂糖なんかじゃなくきちんと致死量の其れを注いでくれたなら。それともこうして何時までも何時までも手ずから甘い其れを飲ませてくれれば。 どちらも万に一つのプロバビリティー。 プロバビリティー犯罪の秘訣はただひとつ、相手の行動を拘束しうる至近距離に居続けること。


「面白いね」
「そうですね」


少しばかり悪質なお遊び、その味は甘く薄く。




コミュニケーション。