今この瞬間の絶対的な優位 |
すらりとした指先に触れれば、小さく身を固まらせた 恭しく手を取れば、何処か驕慢な笑みを浮かべた 一歩側に寄れば、見上げる瞳が色を宿した 近付く為の幾つかの段取り それは侵し難いその。 「……ぅ、」 「神…?」 ソファに凭れて眠っていた佳人は、小さく呻き声を漏らす。 読んでいた本に栞を挟んで傍らに置き、そっとその肩に手を掛けた。 「………照……」 うっすらと開かれた瞳は、かかる睫に覆われて影を帯びる。 無防備な様に、疼くものを感じながらもう一度その名を呼んだ。 「御気分が悪いのでしたら…」 「…いい、何でもない…悪かったな」 「……いえ」 閉ざされた内に入り込む術を知らない。 先んじて拒まれた僭越に、小さく息を吐いた。 彷徨う視線が不在を嘆くその切なさを浮き彫りにして態と目を逸らす。 夢の中身を問う必要はないのだ この人が追い求める人間などたった一人しかいない 「……お茶をお淹れしましょうか」 「…ああ」 立ち上がってくべる火 立ち上る湯気に、そっと指先を湿らせる。 そっと振り返れば、何処か投げ出された侭の体躯を持て余すその人 虚空を見詰める瞳は翳る儘に任されている 「神」 腹立たしい事実に、耐え切れずに詰め寄る。 不躾に腕を伸ばせば、軽く見張られた目は純粋な驚きを宿した。 「み、かみ?」 今までこの体躯に触れたことがなかったわけではない すらりとした指先に触れれば、小さく身を固まらせた 恭しく手を取れば、何処か驕慢な笑みを浮かべた 一歩側に寄れば、見上げる瞳が色を宿した それが近付く為の幾つかの段取り 神への私の尽くす形式 だが 「………神」 するりと撫でた膚 反射的に首を竦ませる様に、肩を震わせたその人は 今度こそ驚きを隠そうとはせずに此方をきつく見据えた。 「魅上!……何を」 「……月さん、」 揺れた色は動揺、ではない 怒りにも恥じらいにも取れる其の色を掻き消したくて更に指を伝わせる。 蒸気に濡れた指が、その薄い色の髪を梳いて横に流れる。 小刻みに震える睫の側を掠めて、薄い耳朶へとそっと触れる。 追うように掌にのる頬の滑らかな感触に確かな愉悦が沸く 「月、……さん」 伝わせた手を引くようにして、その削がれた顎に手を掛ける。 小さく上向かせてやれば、ぎくりと今更のようにその体躯を強張らせた 「……」 「……や…め、…」 似つかわしからぬ弱々しい声を漸くあげて、しかし抗おうとしない。 抗わないのではなく、抗えないのだと知っている。 其処に態と付け入ったのだ この下賤の指など唯軽く首を振り、振り払ってしまえばいいのに 何時もの彼ならば、その切り捨てる視線一つで為せようものを 形式を取らずに踏み入った ただそれだけでこの人は容易く己を失う その訳も知っている、知らされている 怯えにも似た視線はそれでも裏切ることを知らない其れ 「…………―――、」 すらりとした指先に触れれば、小さく身を固まらせた 恭しく手を取れば、何処か驕慢な笑みを浮かべた 一歩側に寄れば、見上げる瞳が色を宿した 近付く為の幾つかの段取り それは”彼の”、侵し難いライン 優しさのような(慈愛のような) 引き下がるその慎みのような(態と目を逸らしたりだとか) 取る形式は私の為ではなく彼が為 「……」 身を折って、上向かせた指先に力を籠める 硬く引き結ばれた其処に、だが触れることはなく 「……湯が沸きました、」 極自然に体を引いて、そっと手を離す。 少し瞑い色其の侭に此方を見返してくる瞳に、恭しく礼を返す。 「……、あ、…ああ」 視線を外した彼は、だが虚空を見詰めるようなこともなく 何処か苛立たしげに(不安げにも見えよう) 軽く俯くようにして自分の足元を見ている。 その瞳は翳る様な隙はなく、ただ怒りと悲しみと戸惑いに揺れ 閉ざされた内に入り込む術を知らない。 先んじて拒まれた僭越に、小さく息を吐いた 彷徨う視線が不在を嘆くその切なさを浮き彫りにして態と目を逸らす 夢の中身を問う必要はない 抗わないのではなく、抗えないのだと知っている。 それでも私は今此処で彼に触れることが出来る 唯その指先が犯す罪だけが、私に彼の中のラインを越す事を許す 「………死人に」 今此処でこの人のその色を変えることは出来ないだろう? 其の塗潰す色が所詮仮初だとしても ただ今だけは 夢見が悪い人に付け入ってますみかみん。 えるえるの夢は出てくるだけで悪夢な気がする(酷 戻 |