目を閉じて祈るけど所詮はその程度だから




…一つとや
一夜明ければ にぎやかでにぎやかで
お飾り立てたる 松飾り 松飾り…――



竜崎は少しだけ驚いて、ベッドの縁に腰掛けている月の背を見詰めた。澄んだ声で抑揚の少ない節を口ずさんでいる月は、そのまま続けてふたつ、みっつと唄を続けていく。日本の数多い童謡のようなものだろう。数を数えていく形式は大して珍しいものではない。ただそれでも月の口から零れるどこか切ない調べは、この部屋の中で異様に際立っていた。

うたい続けている月を邪魔せぬようにそっと近付く。つい昨日まで両者を繋いでいたはずの鉄の鎖は外されていて、その揺れる音が月の声を揺らがすことも勿論ないのだ。



――舞い上げて 舞い上げて
歳神様へ 舞納め 舞納め…――


ふと声を途切らせた月は、小さく首を傾げる。いくつもの派生型を持つ童謡の歌詞にはそう詳しくはなかったから、唄が終わったのか月が途中で止めたのかはわからない。ただ少し困ったように首を傾げた月は、何故か少しばかり途方に暮れているみたいだった。


「珍しいですね、月くんが唄なんて」
「…まあね。ねえ竜崎、竜崎もなんかかぞえうた、しらない?」
「はい?」
「何でもいいんだけど。出来るだけ長い奴。」

頼りない背に声をかければ、予想に反して少しばかり面白そうな様子で月は振り返った。挙句どこか幼稚な態度で、知らない?と繰り返す。少しばかり面食らって竜崎は月を見詰め返した。

「まあ幾つかは…。」
「教えてよ、僕そういうのあんまり詳しくないんだ」
「私だってそんなに知りませんよ」
「別にいい、うたえれば」

ふふ、と小さく嗤って月はごろりとベッドに寝転ぶ。
痣になっている手首の輪は、白く色の抜けた膚の上で只管に病的だった。

「今のじゃ駄目なんですか?」
「だってもっと多くの数を数えなきゃ」
「多くの数?」
「……練習してるんだ、」

ははと乾いた声で笑った月は、手招くようにして竜崎を呼んだ。

「なあ竜崎」
「はい?」


首に回された腕が少しだけ強張っていて、竜崎はいぶかしむ。怖がっているのとも違う恐れているのとも違う、なのに震えているようにすら感じる。


「……お前を四十数える間だけ、好きでいてあげるよ」


きつく抱きしめた腕の中の身体はやわらかく、けれども肩に置かれた顔で彼が泣いているのか笑っているのかは分らずに。