narcoticな恋(、冀うよう)




「ああ経験は勿論ありますよ、此れは私の職業云々の問題でなく、単に日本という国の特性でしょう?」

向こうでは手に入れるのは決して困難ではありませんし、安い映画のように特別な裏ルートで流通しているわけでもありません。ただチョコレイトを買うように、それを求める。行為自体に意味などありませんしね。


竜崎は指先でボンボンを摘み上げて、口元へ運ぶ。舌で転がしてから擦り合わすように噛み砕けば、ウィスキーの芳醇に味覚は支配された。 月は瓶詰めのその菓子を珍しく興味深げに見詰めた。小さく首を傾げて、竜崎の方へ視線を向ける。竜崎のほんの少し落とされた視線が、その瓶に向かったので月は一つ取り上げて爪先で銀紙を剥いだ。

「それで、手に取って、試した?」
「まさか、…といいたいところですが。まあ一度だけ。まあ大して効かなかったんですがね」

ふうん、と些か残念そうに月は肩を竦める。包装を取りきったチョコレートボンボンを人差し指と親指の間で弄び、少しだけ舌先で舐めた。

「月くんはやってみたいんですか?如何にも毛嫌いしそうだと思ったんですが」
「まあね」

どちらとも取れる返答に、竜崎は少しばかり不機嫌に眉根を寄せる。月は小さくチョコレイトを齧った。

「くだらない、ばかみたいだ、だからといって」

月はぱり、と指先の菓子を噛む。二つに割れた其処から、少量の琥珀色の液体がどろりと溢れ出す。白けた目でそれを見下ろしてから、月は割れた断面に唇を近づけてその重たいものを啜った。そのまま残りのチョコレートを口に放りこみ、一つだけ溜息をついた。

「だからといって…意味がないとは限らないだろう?」

糖分とアルコールで濡れた指先を手繰り寄せて、竜崎は無遠慮に舐めあげる。酷く甘い、その味に満足はしたものの薄くのびる瑞々しい何かが酷く上滑りし、今の彼には矢鱈と不似合いだった。其れだけが少し残念だ、とひとりごちる。



月は、顰め面で然し熱心に月の指先と見詰め合う竜崎を凝っと眺めていた。常用性があり、耐性がついてくる其れの摂取に関しての知識を切実に欲しているのに竜崎は莫迦みたいに、飴をしゃぶる動作を繰り返すばかりだった。

書かれた処方箋が、快癒に向かう為に拵えられたものだなんて、信じれるはずが無いのだけれど。

(では結局のところ、この診断に意味は無いのか)
(そして治癒する可能性は、限りなく)



「月くん。もう一つお食べなさい。」

琥珀色の液体で、擬似遊戯の更にプロトタイプを演じて見せろと竜崎はしゃぶる指へ乞う。月は口腔を引っ掻いて、直接竜崎にくちづけた。


絡んだ舌の上で溶けたものは白い粉だったのか、ピンクの錠剤だったのか、赤いカプセルの中身だったのか。



「やめられない」

最早、余命幾許も。







月→竜崎さん