塔の上の聖人



初めてそこに名を記してから
一万人を殺しても、
血塗れたのはペンを握るその手の平だけ

「高い塔の上から何を思いますか」
「あぁまた―そういう話?嫌いなんだけど?」

高い塔、高い志
打ち倒され真二つに叩き折られたその塔は天にも届く高さで

「…神とは酷いものですね、」
「自己神格化の傲慢、を許さなかったのだろう?」

教条的だと予め決まっている物語
表面的な理解なら幾らでも自由が許されている。

「どうせ現在の高層ビルなどに及ぶべくもないものだったでしょうに、ただ其処に 意思が介在したというそれだけで罪だとみなされたのですよ?」

「なら答えは簡単だ、」

その意思を恐れることができるなら

「その神も元は塔を築きあげた偉大なる先人だったのさ」

模倣に、行動のオリジナリティを棚上げても
憤りを覚えるのは人間の自然な摂理だろう?

「概して自分の志したことだけは理解できるものさ」
「そうですね、人々がその塔を作った目的は若しかしたら 自己の驕り等ではなかったかもしれませんのに。」
「………」
「貴方も理解できるのでしょう、そしてそれ以外の答えなど貴方には相応しくないのでしょう」

自分の志したこと、だけを

「それでもその罪で砕かれた言葉で私は貴方を縛ることが出来る」
「思い込みも大概にしてほしいな、どちらの意味だとしてもね」


打ち倒された塔
決してその御手によって折られてはいない
ただ神が為したのは言の葉を乗せるその力を奪ったことだけ

「――美しきバベルに昇り詰める感想は如何ほどに」

荒廃の代名詞、絢爛豪奢なバビロニアの都
神が残酷だって?

「酷いのはお前だろう」
「……いつの世も神とは人民に搾取される存在なのですよ、 月 くん」

上り続ける塔、天に届くその高み
のぼりつめてひろがるけしき?

「其処からならきっと飛べるだろう」
「縛り付けて救い上げてあげますよ」

翼がなくとも、その高さがあれば
地の縛り付けるその力からの暫しの解放を得て

「…余計なお世話だ」
「若しくは塔の下で貴方を待ちます」

「飛び込んで、なんかやらないよ」




潰れてしまえばいい
生暖かい血潮こそが神の証なのだろう?