与えられる拒絶





彼は酷く力なく俯いていた。


「月くん」
「……」

言葉を口にしない彼に、それでも声をかける。
硬く閉じられた唇が、その沈黙が、言いよどむような(言葉の採択に迷うような) そんなやさしい類のものでないことを自分は知っていたし、彼も隠すつもりはないのだろう。

「……」

彼は時たま斯うして酷く無防備な姿を自分に晒した。
ありえない様な事なのに、そうなってしまえばそれが極自然な事の様に思える。
きっと彼もそうなのだ。その証拠に嗚、彼の瞳は酷く従順。


「らいとくん」


いとおしむ様に(そう、あくまで其れは見せ掛けの) 優しく手を伸ばせば彼は拒むことはしない。
可笑しな事だ。何時もの彼はこんな真似をされたら屹度、強引に蹂躙されるより怒るだろう

それでも(いまの)彼はただ小さく身じろぎしてこの掌が彼の体躯に触れるのを許容する

言葉を口にしない彼に、それでも声をかける。
それが言葉にできないのではなくしないのだということを自分は知っていたが
彼は知らないのだろうな、と何処か遠く思った。



ひとがしんだ
かれがころしたのだ



裁きでない人の死に彼は耐えられない
言い訳の与えられない窮地に彼は慣れていない
(彼は子供だ)
(彼は純粋だ)
(そう、彼自身が言ったように)



彼は自分の罪に慄く事はない
なのにその罪の重さ、それだけに恐れを抱くことが出来るらしい
なんとも器用な真似をする。犯した罪を悔いずに、彼は犯してしまったその瞬間だけを嘆く。



「月くん、」


傷ついた目で漸く自分を見上げた彼を酷く冷静に見下ろす。
彼は私を見た


「もうやめたらいい」


口をついた衝動はだが、酷く静かに零れ落ちる。
そしてそれを聞いたらしい彼は、別段驚愕したりはしなかった。
(聞いた、のであって。理解したわけではないだろうが)

「……」

それでも一言も(一声も)あげない彼は、見上げた瞳を揺らすこともない
何故彼がこんなことをしなければならないのだろうと今更のように思う。
彼がなんだか只管に尽くしたがっている世界とやらは別段彼を必要としない。

彼がいずとも(勿論彼がいても)
それはただ其れだけの事として処理されるものなのに

「………夜神月」

自分の立場、(其れは擁護者だとか断罪者だとか)というものに立ち返って
彼の名を突きつければ、彼は初めてその表情に色を籠めた。

興味以外の不純を見つけられない其処に半ば絶望しながら
(絶望?嗚、確かにこれは寸分違いない)
もう一度彼を呼んだ。



彼はやめたりしない
やめられない、
それは下らない罪悪感などの介入する余地のない
明らかな


「あやまればいい」


言葉を口にしない彼に、それでも声をかける。


「あやまればいいのに」

私に

「そうすれば私は貴方を許せる。赦せる。なのに」


言葉を口にしない彼に、それでも声をかける。
それが言葉にできないのではなくしないのだということを自分は知っていたが
彼は知らないのだろうな、と何処か遠く思った。

なのに彼は
誤りつづける
謝りつづける

私でない彼に
彼でない世界に


「月くん」
「…ごめん」


言葉を口にした彼はやはり酷く力なく俯いてしまった
彼が言葉を口にしなかった訳を知っていた
私は彼に干渉する
干渉されて揺らぐものがあると彼が自覚しているからだ

なのに
彼はやめたりしない
やめられない、
それは下らない罪悪感などの介入する余地のない
明らかな
どこまでも純粋な彼自身の

「ごめん、りゅうざき」

呼ばれた名前にぎりりと唇を噛み締める

私なら私に謝れば私は
彼を赦すことが出来るのに




世界と自分を悔いる彼はそれでも
あやまれないことをしか、私にはあやまってくれないのだ






うわ意味不明ですいませ…!
あやまれないことをあやまる月たんが書きたかっただけ。