紫色の空は狭いだろう






「俺は悪くない!」

悲痛な声で叫ぶ彼を、冷たく見やる。おれのせいなんかじゃあない、と繰り返す彼の顔は酷く歪んでいて喚き散らすそれが泣き出す一歩手前のものであることは、その場にいる人間全員が知っていることだった。



彼は悪くない。
そんなの当然のことだ。彼は何もしていない。こんな得体の知れない地に落ちたのは彼のせいではないし、当然ながらこの濁った空と海の色は彼などという矮小な存在に影響されるようなものでもなかった。

師匠がやれって言ったんだ、と彼は未だ必死に言い募っている。彼を取り巻く視線に縋り付くようにして叫ぶ。彼が言い訳を弄さねばいけない理由などないのだが、そんな事を私は言う気はない。それに気づかない彼が愚かなのだし、また彼を見やる人間の中にはその行為を欲しているものもいるだろう。(当然その人間の愚かさは唾棄に値する) 彼のうつくしい赤金の髪は作り物で、それどころかかれの実戦を知らない高貴な体もまがい物で、極め付けには彼の愛するすべての物がただの夢物語でしかない。それはあの哀れなホドの異端児、彼の命を文字通り握っていた男だけに限らず、自分を含むこの場にいる人間すべてに。

一つの街が消えたという事実があり、その背景に国家単位での思惑が覗いており、それが邪推などではなく実際もともと其れに命じられた末での結果なのだから何ということもない、大体の筋書きは読めるというものである。無知は言い訳にならないが、同時に難詰される類のものでもない。彼はただ知らなかった。それはただそれだけである。 非難の目を向ける人間達に、逆説的に哀れっぽく謝罪を繰り返す彼をただじっと見詰める。


「おれは、わるくないんだ…」

非難されていることに焦るだけで哀しめない彼が心底惨めだと思った。言い縋るようでいて実のところ本当の理解など求めていないことを、誰より彼自身が分っているようだったのが気に触った。それでいて瞳の底にまごうことなく深い傷のようなものを宿らせていて、なんと傲慢な子供だと酷く嫌気がさした。

彼を追詰めたのは彼以外の人間であることは明白なのに。責任から逃れるようでいてなんとも彼は其のことを理解しきっている。言い訳、に聞こえるのはそれゆえなのだし、そして其れを言わない自分はひたすらに愚かなのだ。 (彼はそして、そのことを責めることはない)



「……此処にいると馬鹿な発言に苛々させられる」



彼が今此処で泣き出せたならばその子供を受け入れてやれたのだろうに。 罪人が己の前から退出するのを、彼はただ傷ついた子供の目で見つめているだけで、決して慰めたりしないのだった。
(もう彼は、この先私達に一度たりとて慰めを欲することなどないのだろう)



彼が悪い。
お前が悪いんだと泣いてくれれば、私はきっと。






ジェイルクってなんか捻くれてる。多分ジェイドがどう見ても初恋でルークがどうにも達観気味に見えるからです(偏見